004

巴絵の甘美な夜



・・・・・・・・・・・誘惑の試着室・・・・・・・・・・・
<3>

試着室に入るときに店主が閉じたドアのために、そこは2人だけの密室になった。
天井から噴出す暖気のため汗ばむくらいのその六畳ほどの密室は、巴絵に近寄った店主のつけている濃厚な香りを増幅した。
「なんていいニオイなんだろう・・・」
巴絵が思わずそう思うほど、それは大人びた夜の雰囲気を醸し出していた。
店主は巴絵が小鼻をヒクっとさせたのを見逃さず、
「この香り、はじめて?」
と巴絵に問いかけた。巴絵はおずおず聞いた。
「はい、なんていう香水ですか?」
「これはゲランのミツコよ。そして香水じゃなくてコロンよ」
言いながら自然な感じで、店主は巴絵の尻たぶをパンティの上からなぞった。
巴絵は尻たぶを撫でられ、びっくりしたように腰を前へ突き出した。
「あなたのヒップには、このパンティは大きいわ。」
巴絵の驚きに頓着せず、店主は言った。
「もっとキッチリ合わせないとアウターに線が出ちゃって見苦しいの。これ着けたまま修正してみるから、ティッシュはずしていただける?」

店主の見ている前でティッシュを取り出していいのか、ためらう巴絵をしりめに、
「あなた今日はブラも探しにいらしたんでしょ?でしたらブラの試着もしますから上は脱いでくださる?ブラはご自分で合っているつもりでも、専門家が見たらジャストフィットしてない場合が多いの」
重ねるように店主は言った。
「ブラ取ってきます。上を脱いでおいてくださいね。」
そう言いながら店主はドアを出ていった。


店主が広い試着室を出たあと、巴絵は覚悟を決めたように、急いでシャツのボタンをはずしにかかった。他人に迷惑をかけてはいけない、という巴絵の生来の優しい心が脱衣を急がせたのだ。
そして巴絵は気づいていなかったが、店主の巧みな言葉の誘導と瀟洒な店の雰囲気に、そしてミツコの艶麗な香りに巴絵はあきらかにはまっていたのだ。

一度シャツを脱いでブラの背中のホックをはずし、再びシャツを肩にかけるようにした。
さらにためらった後、巴絵はパンティに手を差し入れ、充てていたティッシュを取り去った。
それはさきほど巴絵が湧き出させたシタタリを吸った、他人に見せられない恥ずかしいティッシュだった。
今日歩いてここまで来る間に汚れもし、おそらくは匂いさえ、しているだろう。
もしそのティッシュを広げられたら、恥ずかしさで死んでしまいたいくらいになる。
巴絵はあわてて汚したティッシュを、壁にかけてあるジャケットのポケットにつっこんだ。

「お待たせしました」
試着しているパンティと同じデザインらしい純白のブラを手に、店主が戻ってきた。
「脱いでくだすった? じゃ、これね。ご自分で着けてみてくださる?」
店主が渡すブラを、巴絵はなるべく肩にかけたシャツがずり落ちないように、こわごわ胸にあてた。
「あなた、独りでブラ着けるとき、シャツをはおったりしてないでしょ?」
微笑みながら言いざま、店主は巴絵のシャツを取り去った。
「こうしないと、あなたのブラの着け方、よく見えないのよ。さ、着けてみて」
言い方は優しかったが、どこか拒否できない毅然とした雰囲気をもって店主は言った。
巴絵は、いつもしているやりかたで、ブラの肩ひもに腕を通し、乳房をカップにそっと包みこませると背中のホックをかけた。

それはデザインこそ着けているパンティとおそろいだが、素材の感じが少し違っていた。
パンティと同じような感触だが、縫い目というものが見当たらない。
パンティは、ややヘアが透ける程度だったがブラはそうではなかった。
乳首の輪郭どころか、乳輪まではっきり見えるのだ。
「既製品だとA70と75の中間くらいかしらね」
ブラの肩ひもを調整してやりながら店主が言った。
「あなたのブラの着け方は、それでオシマイ?それじゃぁサイズの合ったものが手に入っても、着け方が正しくないわ。失礼して手を入れるわね」
店主は巴絵の試着しているブラのカップに、おもいきり手を入れてきた。
「ブラっていうのはトップ、つまり乳首の位置がきっちりカップのトップに合ってないと、綺麗に見えないのよ。それにボリューム感も、実際より小さく見えてしまうの」
言いながら店主は、カップ中央に乳房全体を寄せるようにしていたが
「乳首の位置、なおすわね」
と、巴絵の陥没ぎみの乳首を、ひっぱるようにした。

店主の温かい指先につままれ、みるみる頭をもたげてきた巴絵の乳首は、うすいブラカップを押しあげるような形でカップごしに突起した。
巴絵はもはや立っているのがつらくなってきていた。
さきほどから顔近くに店主の美しい顔が行きつ戻りつしているので、ミツコの甘美で濃厚な香りが巴絵の嗅覚をくすぐりつづけていた。
しかもいきなり、自分以外たった一人の男しか摘んだことのない乳首をひっぱられたのだ。
「んふぅ・・・・・」
巴絵はよろけそうになり、店主の肩さきにつかまった。
「あら?大丈夫?」
店主は巴絵の背中に手をまわし、指先でささえるようにした。
とたんに巴絵の背中を中心に、体に電気が走った。
巴絵はただハァハァと、せわしない息をするのが精一杯であった。
「もう少しがんばってね。ブラの採寸してからパンティを合わせますから」
巴絵が漏らしたタメ息を、顔近く寄せている店主が聞き逃したはずはなかった。



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