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天狗の赤ふん



・・・・・・・・・・・第2話・・・・・・・・・・・

ありさは家に帰ると、すぐに赤ふんを洗濯しはじめました。

天狗とはいっても他人の下穿きをそのまま身につけるのは、ちょっと抵抗があるからです。

「うきうき〜♪この赤ふんをしめると姿が見えなくなるんだもんねえ〜!

どこへ行こうかにゃ〜〜〜?」

ありさはきれいに洗って天干した赤ふんを、さっそく締めてみることにしました。

でもふんどしを締めるのは初めてなので、なかなかうまく締められません。

何度か試みるうちにようやくちゃんと締めることができました。

「な〜んか窮屈な感じだにゃぁ〜。それにちょっと歩いただけでもアソコに食込んでくるぅ〜」

元々ふんどしは男性が締めるもの。女性が締めるといやがおうでも大事な場所に食込んでく

るのでした。

それでも、鏡の前に立ったありさは、自分の姿が見えなくなったことにすっかり気をよくして、い

そいそと出掛けていきました。


ありさが最初に訪れたのは、幼なじみの英吉の庭でした。

英吉はにわとりに餌を与えている最中でした。

ありさはざるをとりあげ餌を撒きました。

突然、ざるが宙に浮き、餌がひとりでに撒かれたので、英吉はびっくり。

慌てふためき、家の中へ駆け込んで行きました。


「おっとう〜、おっとう〜、大変だ!ざるが浮いて餌が勝手に!」

父親が出てきて、大笑いしました。

「英吉、昼間から寝ぼけてるんじゃないよ。いくらにわとりの世話をさぼって遊びに行きたいか

らといって、そんな下手な嘘はつくもんじゃないよ」

「嘘じゃないって〜!」

父親が縁側に出てきたとき、ありさはざるを地面に置いて、木陰に隠れていました。

「ほ〜ら、ざるはちゃんとあるじゃないか」

「でも、でも、さっきは浮いてたんだよ〜!」

「さあさあ、さぼってないで、仕事、仕事〜」

ありさは懸命に笑いをこらえながら、英吉の家から立ち去りました。


ありさが次に訪れたのは、庄屋さんの屋敷でした。

庄屋さんとは顔見知りでしたが、屋敷に入るのは初めてのことでした。

「うわぁ〜立派なおうちだにゃぁ〜。ありさのおうちより十倍以上広いにゃぁ〜」

すると離れの方から、女性の泣くような声が聞こえてくるではありませんか。

「あんあん・・・」

「にゃっ?」

ありさは声のする方へ近づき、戸の隙間からこっそりと中を覗いてみました。

「にゃ〜〜〜〜〜っ!!!!!」

なんと驚いたことに、庄屋さんが若い女性と素っ裸で乳繰り合っているではありませんか。

「ぎょえ〜〜〜〜〜!!どえっ〜〜〜〜〜!!」

ありさは初めて見る男女のまぐわいに、いっしゅん、卒倒しそうになりました。

しかしよく見ると女性はまだありさと同じ年頃の娘で、どうも庄屋さんところの使用人のようで

す。


「だんなさまぁ・・・それだけは、それだけは・・・どうかお許しください・・・あああっ・・・

あああっ・・・いやぁ〜・・・」

すごいところに出くわしてしまったありさは腰が抜けそうになりました。

ただただ驚くばかりです。

すでに十六になったとはいっても、まだ男性とむつごとを交わしたことがありません。

もっとそばで見たくなったありさは、しずかに戸を開けて二、三歩進んでみました。

幸い庄屋さんたちは気がつかないようです。

近寄ったありさはさらに驚きました。庄屋さんのおなかの下に、なにやら元気のよい

キノコのようなものが生えているではありませんか。



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